本記事には広告(PR)を含みます。
「実家の父が、最近同じ話を何度も繰り返すようになった」——そんな小さな変化に気づいたとき、多くのご家族が見落としがちなのが「お金の問題」です。もし親が認知症と診断され、金融機関がそれを把握すると、本人の預金口座は事実上「凍結」され、家族であっても引き出しや振込ができなくなることがあります。
親の介護費用や施設入居一時金を、親自身の預金でまかなうつもりだったのに、いざというときに1円も動かせない——。これは決して珍しいケースではありません。厚生労働省の最新推計では、認知症の高齢者は2025年に約471.6万人(65歳以上の約8人に1人)、2040年には約584万人に達すると見込まれています。
こうした「資産凍結」への備えとして注目されているのが「家族信託」です。ただ、名前は聞いたことがあっても「仕組みが難しそう」「費用が高そう」というイメージから、後回しにしている方も少なくありません。
本記事では、製薬企業のMR(医薬情報担当者)として7年間医療現場に関わり、その後CFP®・IFAとして独立した私あきFPが、家族信託が口座凍結を防ぐ仕組み、費用相場、実際の設計例、そして2026年に成立した成年後見制度の大改正まで、できるだけ噛み砕いて解説します。
結論:認知症の「資産凍結」対策は、元気なうちの家族信託が有力な選択肢
- 認知症で口座凍結が起きると、成年後見制度を使わない限り、原則として親の預金は動かせなくなります。
- 家族信託なら、親が元気なうちに「財産を管理する権限」を家族に託しておけます。
- 費用は総額50万〜100万円程度が一般的ですが、凍結後に後見人へ毎年報酬を払い続けるコストと比較して検討する価値があります。
- ただし家族信託は財産管理に特化した仕組みで、介護施設の入所契約などの「身上監護」はカバーしない点に注意が必要です。
そもそも、なぜ認知症で「口座凍結」が起きるのか
金融機関は、預金者本人の意思確認ができない状態での取引を原則として認めていません。これは本人の財産を守るためのルールで、家族が悪意なく引き出そうとしても、本人の判断能力が低下していると分かれば取引を止めることがあります。
凍結されると、預金の引き出しだけでなく、定期預金の解約、株式・投資信託の売却、不動産の売買や賃貸借契約なども本人名義では進められなくなります。運用資産が多いご家庭ほど、影響は大きくなりがちです。
2021年2月には全国銀行協会が指針を公表し、医療費など「本人の利益が明らかな使途」に限り、親族が代わりに引き出せるという考え方が示されました。ただしこれは各金融機関の任意の運用にとどまり、まとまった金額や資産運用の変更まで柔軟に対応してもらえるとは限りません。あくまで例外的な措置と考えておくのが安全です。
認知症対策の主な選択肢を比較する
親の資産凍結に備える手段は、家族信託だけではありません。それぞれに得意・不得意があるため、まずは全体像を押さえましょう。
| 比較項目 | 家族信託 | 任意後見 | 法定後見 | 代理人カード等 |
|---|---|---|---|---|
| 利用できる時期 | 本人が元気なうち | 元気なうちに契約(発効は判断能力低下後) | 判断能力が低下した後 | 本人が元気なうち |
| 財産の管理・処分 | 契約で定めた範囲で柔軟に対応 | 本人のために管理(運用は限定的) | 本人のために管理(家裁の監督下) | 日常的な入出金が中心 |
| 資産の運用・組換え | 信託目的の範囲で可能 | 原則保守的 | 原則保守的(元本保全重視) | 不可 |
| 身上監護(施設契約等) | 対象外 | 対象 | 対象 | 対象外 |
| 家庭裁判所の関与 | なし | あり(後見監督人) | あり(継続的な監督) | なし |
| 継続コスト | 原則なし(初期費用中心) | 監督人報酬など | 後見人・監督人報酬(毎年) | なし |
| 初期費用の目安 | 50万〜100万円程度 | 契約・登記費用など | 申立費用ほか | ほぼ不要 |
家族信託が「口座凍結」を防ぐ仕組み
家族信託は、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託す契約です。多くのケースでは、親が「委託者 兼 受益者」、子が「受託者」となります。
ポイントは、信託した金銭を受託者が新しく開設する「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」に移して管理する点です。仮にその後、親が認知症になり親名義の口座が凍結されても、信託口口座は受託者である子が管理しているため凍結されず、介護費用の支払いなどを止めずに続けやすくなります。
受益者は引き続き親なので、信託財産から得られる利益(家賃収入や生活費)は親のために使われます。委託者と受益者が同じ「自益信託」であれば、信託を設定した時点では贈与税や不動産取得税は原則かかりません(登録免許税は課税されますが、通常の売買より軽減されています)。
家族信託の費用相場と内訳
家族信託を専門家に依頼して組成する場合、総額の目安は50万〜100万円程度です。信託する財産の規模や不動産の有無によって変動します。主な内訳は次のとおりです。
| 費用項目 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| コンサルティング報酬 | 信託財産評価額の約1.1%(最低33万円程度) | 1億円以下は約1%、1億円超〜3億円以下は約0.5%が目安 |
| 信託契約書の作成 | 11万〜16.5万円程度 | 専門家が作成する場合 |
| 公正証書化の実費 | 5,000円〜25万円程度 | 財産額により変動 |
| 信託登記の代行報酬 | 1管轄あたり10万円程度 | 不動産を信託する場合のみ |
| 登録免許税 | 不動産の固定資産税評価額に対して課税 | 土地・建物で税率が異なる(不動産を信託する場合) |
【実例】父の認知症に備えたAさん家の家族信託
※プライバシー保護のため、内容は一般的な事例として再構成しています。
Aさん(58歳・首都圏)の父(85歳)は、自宅(評価額約2,000万円)と預貯金約1,500万円を保有していました。物忘れが増え始め、Aさんは「父の預金で施設費用を払えなくなるのでは」と不安を感じていたそうです。
そこで、父を委託者兼受益者、Aさんを受託者として、自宅と預貯金1,000万円を信託財産とする家族信託を組成。信託口口座に1,000万円を移し、残りは父の生活口座に残しました。
その約2年後、父は認知症と診断され、生活口座は凍結。しかし信託口口座は動かせたため、施設入居一時金や毎月の介護費用の支払いは滞りませんでした。将来、自宅を売却して介護資金に充てることも、受託者であるAさんの判断で進められる設計にしています。費用は、コンサルティング報酬・契約書作成・公正証書・信託登記を含めて約70万円だったとのことです。
2026年、成年後見制度はどう変わるのか(最新トピック)
家族信託とよく比較されるのが成年後見制度です。この制度が、2026年に大きく変わりました。
2026年6月17日、成年後見制度を見直す改正民法が国会で成立しました。2000年の制度開始以来、約26年ぶりの大改正です。主な変更点は次のとおりです。
- 「後見・保佐・補助」の3類型を「補助」に一本化し、本人に必要な範囲だけ支援する「オーダーメイド型」へ。
- 一度始めると原則やめられなかった「終身制」を見直し、「遺産分割が終わるまで」など必要な期間だけ利用できるように。
- 支援の権限(同意権・代理権)の付与には、原則として本人の同意が必要に。
ただし、この改正法の施行は公布から2年6か月以内とされ、実際の運用開始は2028年頃の見込みです(2026年7月時点では未施行)。つまり、今まさに認知症対策が必要なご家庭にとっては、当面は現行制度と家族信託を前提に検討することになります。改正で成年後見制度は使いやすくなる方向ですが、「家族の裁量で柔軟に財産を管理したい」というニーズには、引き続き家族信託が選択肢になり得ます。
家族信託の注意点・デメリット
- 身上監護はできない:介護施設の入所契約や医療同意など、身の回りの手続きは家族信託の対象外です。必要に応じて任意後見と併用します。
- 損益通算の制限:信託した不動産から生じた赤字(損失)は、信託外の所得と損益通算できず「なかったもの」とみなされます。収益不動産を信託する場合は要注意です。
- 実務に精通した専門家が限られる:家族信託は個別設計が必要で、経験の浅い専門家に依頼すると想定外のトラブルにつながることがあります。実績を確認して依頼先を選びましょう。
- 受託者の負担と信頼関係:受託者となる家族には、分別管理や帳簿作成などの責任が生じます。家族間の合意形成も欠かせません。
あきFPの一次見解——CFP・IFA・元MRの3つの視点から
CFP®(ファイナンシャル・プランナー)として:家族信託は「相続対策」というより、まず「認知症による資産凍結対策」として捉えると判断しやすくなります。親が元気なうちにしか契約できないため、「まだ早い」と先延ばしにした結果、間に合わなかったというご相談は少なくありません。費用は決して安くありませんが、凍結後に法定後見を使うと専門職後見人へ毎年報酬(家庭裁判所が決定)を払い続ける可能性があり、長期の総コストで比べる視点が大切です。
IFA(金融商品仲介業者)として:資産運用の観点では、親名義の証券口座も凍結の対象になり得る点に注意が必要です。凍結されると、相場が急変しても売却や組換えができません。運用資産が多いご家庭ほど、信託や任意後見で「動かせる状態」を確保しておく意義は大きいと感じます。
元MR(製薬企業の医薬情報担当者)として:医療現場に7年間関わった経験から、認知症は「ある日突然」ではなく、徐々に進行することが多いと実感しています。だからこそ、診断がついてからでは遅く、「まだ大丈夫」と思える段階での早めの家族会議が肝心です。医療・介護の見通しとお金の準備は、セットで考えることをおすすめします。
まずは無料相談から検討を
本記事には広告(PR)を含みます。
家族信託は個別設計が前提のため、書籍やネット情報だけで完結させるのは現実的ではありません。まずは家族信託や相続に詳しい専門家(司法書士・税理士・FPなど)の無料相談を活用し、ご家庭の資産状況に合った設計を相談することから始めてみてください。複数の専門家を比較し、実績と説明の分かりやすさで選ぶと、後悔が少なくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族信託は親が認知症になってからでも契約できますか?
A. 契約には本人(委託者)に判断能力があることが前提です。認知症が進行して意思確認が難しくなると契約できないため、元気なうちの準備が重要です。
Q2. 費用の総額はどのくらいかかりますか?
A. 一般的な目安は50万〜100万円程度です。信託財産の評価額や不動産の有無で変動します。詳細は専門家の見積りで確認してください。
Q3. 家族信託をすれば成年後見制度は不要ですか?
A. 必ずしもそうではありません。家族信託は財産管理に特化しており、施設入所契約などの身上監護はカバーしません。必要に応じて任意後見と併用します。
Q4. 信託した財産に税金はかかりますか?
A. 委託者と受益者が同じ「自益信託」なら、設定時に贈与税や不動産取得税は原則かかりません。ただし受益者が変わると贈与税・相続税の対象になります。税務は個別性が高いため、税理士に確認しましょう。
Q5. 2026年の成年後見制度改正で家族信託は不要になりますか?
A. 改正で成年後見制度は柔軟になりますが、施行は2028年頃の見込みです。家族の裁量で財産を管理したいニーズには、引き続き家族信託が選択肢になります。
関連記事
- 親と自分のための相続入門 2026|40-50代が今日から始める5ステップ
- 生前贈与 2026|暦年贈与 vs 相続時精算課税の改正後ベストプラクティス
- 40-50代の家計最適化チェックリスト|年200万円の差を生む20項目
著者プロフィール
あきFP(CFP®認定者/IFA):製薬企業のMR(医薬情報担当者)として7年間、臨床現場と関わったのち、CFP®認定者・IFA(金融商品仲介業者)として独立。40代から80代まで、特に定年前後のお客様を中心に、資産運用・保険・住宅ローン・相続まで含めたライフプラン全体の設計に携わっています。
あきFPのKindle著書のご案内
本記事のテーマに関連する、あきFPのKindle著書をご紹介します。Kindle Unlimited会員の方は無料でお読みいただけます。
📚『死ぬときに、笑えるか。』
製薬MRから独立した著者が、相続や終活を含む「人生後半のお金と生き方」を、40代以上の読者に向けて整理した一冊です。
👉 Amazonで詳細を見る
※本リンクはAmazonアソシエイト・プログラムによる広告(PR)を含みます。
免責事項・一次情報
本記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品・サービスの購入や契約を推奨するものではありません。制度・税制・費用相場は2026年7月時点の情報に基づいており、今後変更される可能性があります。実際の手続きや判断にあたっては、税理士・司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。契約・投資はご自身の判断と責任において行ってください。
- 厚生労働省「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」:https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
- 一般社団法人 全国銀行協会:https://www.zenginkyo.or.jp/

コメント