「何から手をつけたらいいのか、さっぱりで」
親御さんを亡くされた直後の方から、よくうかがう言葉です。葬儀が終わって、役所の手続きがひと段落して。ふと、財産がどこに何があるのか誰も把握していないことに気づく。
同居されていた方でも、通帳の置き場所は知っていても、証券口座や保険までは分からない。別居ならなおさらです。本人に聞けばよかった、と思っても、もう聞けない。
この「調べる」という工程、相続のなかでいちばん地味で、いちばん時間を食います。ただ、ここを飛ばすと後でやり直しになるので、順番としては最初に来ます。
のんびりできない理由が、2つあります
ひとつは、相続放棄の期限。自分が相続人だと知った日から3か月です。借金のほうが多いと分かっても、3か月を過ぎていれば原則として放棄できません。
もうひとつは、相続税の申告期限。亡くなった日の翌日から10か月です。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった、税額を大きく下げる制度は、申告が要件になっているものが多い。期限を過ぎてから「使えたのに」と気づくのは、いちばん避けたいところです。
3か月のほうは、あっという間に来ます。四十九日が済んだころには、もう半分が過ぎている。
不動産は、今年から探しやすくなりました
これまで不動産の調査は、けっこう面倒でした。固定資産税の納税通知書を手がかりにしても、そこに載るのはその市区町村のぶんだけ。別の市に土地があれば出てきません。非課税の私道などは、通知書に載らないこともあります。
その状況が、2026年2月に変わりました。所有不動産記録証明制度という新しい仕組みが始まっています。
特定の人が所有権の登記名義人になっている不動産を、全国分まとめて一覧にして証明書として出してくれる制度です。相続人も請求できます。手数料は、書面での請求が1,600円、オンラインで請求して郵送で受け取る場合が1,500円、オンライン請求・窓口受取が1,470円。該当する不動産がなければ「ない」という証明が出ます(その場合も手数料はかかります)。
便利になったのは確かですが、万能ではありません。検索は氏名と住所の一致が前提なので、登記簿上の住所が古いままだと拾えないことがあります。昔の住所で登記されたきり、引っ越しても変更していない。よくある話です。過去の住所や氏名も検索条件に加えられますが、そのための書類が要ります。
同姓同名の別人の不動産が混ざることもありますし、登記簿がコンピュータ化されていない古い不動産は出てきません。法務省自身が「網羅性には限界がある」と書いています。
ですので、これ一本に頼らず、市区町村の名寄帳と組み合わせるのがいいと思います。名寄帳はその市区町村内の課税台帳を名義人ごとにまとめたもので、非課税の私道なども載ってきます。心当たりのある市区町村があれば、取っておくと安心です。
預貯金だけは、地道にやるしかない
意外に思われるかもしれませんが、「全国の銀行をまとめて照会する」という仕組みは、日本にはありません。
なので、手がかりを拾って一行ずつ当たることになります。通帳とキャッシュカード、金融機関からの郵便物、カレンダーやタオルといった粗品、スマホやパソコンのアプリとブックマーク。ネット銀行は紙の通帳がないので、メールの受信箱を見るのが早いこともあります。
口座が見つかったら、その金融機関に残高証明書を請求します。亡くなった日時点の残高を出してもらう書類で、相続税の申告にも使います。同じ銀行の他の支店にも口座があれば、まとめて出してもらえるのが普通です。
ひとつ注意を。金融機関に死亡を伝えると、その口座は凍結されます。公共料金の引き落としも止まるので、先に引き落とし先を切り替えておいたほうが面倒がありません。当面の支払いに困る場合は、遺産分割前でも一定額を引き出せる仮払い制度があります。
証券口座は、ほふりに聞く
株式や投資信託のほうは、まとめて調べる窓口があります。証券保管振替機構、通称ほふりです。
「登録済加入者情報の開示請求」をすると、亡くなった方がどの証券会社や信託銀行に口座を持っていたかが分かります。相続人からの請求は6,050円。法務局で取れる法定相続情報一覧図を添えると4,950円に下がります。回答までは1か月ほど見ておいてください。
分かるのは金融機関の名前までです。どの銘柄をいくら持っていたかは出ないので、判明した証券会社に改めて残高を照会することになります。それと、非上場株式、外国株式、国債や社債といった債券は対象外です。電子化される前の紙の株券も出てきません。
生命保険にも、同じような窓口があります
生命保険協会の、生命保険契約照会制度です。協会に申し込むと、加盟している生命保険会社全社に契約の有無を調べてくれます。
ここで気をつけたいのが利用料です。長く3,000円でしたが、2026年4月1日の申請分から改定されていて、いまはウェブ申請が6,000円、書面申請が7,000円。ネットで「3,000円」と書いてある記事がまだかなり残っているので、金額を見て驚かないように。なお災害時の利用は無料のままです。
回答までの目安は、入金確認から14営業日ほど。分かるのは契約の有無と保険会社名までで、保障内容や金額は各社に直接聞くことになります。
対象外のものがそれなりにあるのも、知っておいたほうがいいところです。共済、勤務先経由の団体保険、海外で加入した契約は含まれません。すでに解約・失効したもの、支払いが始まった年金も対象外。お勤め先の団体保険は、会社や健保組合に確認するしかありません。
借金のほうも、調べられます
相続は、プラスの財産だけを選んで受け取ることはできません。3か月の判断を間違えないために、負債も見ておく必要があります。
信用情報機関が3つあって、それぞれに開示請求ができます。クレジットカードや信販系はCIC、消費者金融系はJICC、銀行系は全国銀行個人信用情報センター。扱う範囲が違うので、心配なら3つとも当たることになります。相続人からの請求も可能で、手数料は各社千円台。金額や手続きは変わることがあるので、申し込む前に各社のサイトで確認してください。
ただし、ここに載らない借金もあります。個人間の貸し借り、連帯保証、事業の買掛金。郵便物と、確定申告の控えが手がかりになります。
見落としやすいもの
貸金庫。契約していると銀行から通知が来ているはずですが、開けるには相続人全員の立ち会いが必要になることが多く、時間がかかります。早めに確認しておきたいところです。
それから、画面の中にしかないもの。ネット銀行、ネット証券、暗号資産、ポイント。紙の手がかりが一切ないので、スマホとパソコンが入口になります。ロックが解除できずに手が止まる、というのが最近いちばん増えている相談かもしれません。
順番としては、まず全体を見てから
調べ終わったら、プラスとマイナスを一枚の紙に並べてみてください。そこで初めて、相続するのか放棄するのか、相続税がかかりそうかどうかが見えてきます。
不動産が出てきた場合は、名義変更にも期限があります。2024年から相続登記が義務になり、過去の相続ぶんは2027年3月31日が期限です。詳しくは相続登記の義務化に書きました。
手間のかかる作業ですし、気持ちの整理がつかないうちに進めるのはしんどいものです。それでも、3か月と10か月という期限だけは動きません。全部を一度にやろうとせず、今週は郵便物を集める、来週はほふりに出す、というくらいに分けて進めるのが、結局はいちばん早いように思います。
※この記事は2026年10月時点の制度・手数料に基づいています。金額や手続きは改定されることがあるため、申し込む前に各機関の案内をご確認ください。

