「だいたいでいいので、手取りがいくらになるか知りたいんです」
退職を1年後に控えた方から、こう言われたことがあります。
会社からもらった試算表には退職金の額だけが書かれていて、税金を引いたあといくら残るのかは書いていない。住宅ローンの残りを一括で返すか、それとも手元に置くか。判断するには手取りが分からないと始まらない、というお話でした。
もっともだと思います。
退職金の税額は、順番さえ押さえれば自分で計算できます。電卓があれば5分ほど。この記事では、その手順を最初から最後まで通して書きます。計算が面倒な方のために、金額別の早見表も載せました。
計算は4つの段階に分かれます
先に全体の流れを。
まず勤続年数を確定させる。次にそこから退職所得控除を出す。退職金から控除を引いて、残りを半分にする。最後にその金額へ税率をかける。
この順番です。逆から考えると混乱するので、頭から順に進めてください。
1.勤続年数を出す
入社日から退職日まで。それだけです。
端数は切り上げます。32年6か月なら33年。1日でも次の年に入っていれば、まるまる1年として数えます。
ここで1年増えるかどうかは、意外と効きます。20年を超えている方なら、1年で70万円の差。定年の日付に選択の余地がある方は、確認しておく価値があると思います。
休職期間や出向期間をどう扱うかは、会社の退職金規程によります。通算する会社もあれば、除く会社もある。自分の勤続年数が何年として計算されるのか、人事に聞いておくのが確実です。
2.退職所得控除を出す
勤続年数が決まれば、控除額は自動的に決まります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
よくある年数だと、こうなります。
| 勤続年数 | 控除額 |
|---|---|
| 20年 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 35年 | 1,850万円 |
| 38年 | 2,060万円 |
| 40年 | 2,200万円 |
退職金がこの金額以下なら、ここで計算は終わりです。税金はかかりません。
実際、そうなる方は少なくありません。勤続38年で退職金が2,000万円なら、控除2,060万円の範囲に収まる。1円も引かれない計算になります。
3.控除を引いて、半分にする
退職金から控除額を引きます。残った金額に2分の1をかける。
これが課税退職所得金額です。
勤続35年・退職金2,000万円の方なら、2,000万円 − 1,850万円 = 150万円。その半分で75万円。
この「半分にする」工程があるおかげで、退職金の税負担はかなり軽くなっています。給与や事業所得にはない扱いです。
ひとつ例外があって、勤続5年以下の役員等は2分の1が使えません。役員でなくても勤続5年以下なら、控除後の金額のうち300万円を超える部分には使えない。短期間で辞めた方は気をつけてください。
4.税率をかける
課税退職所得金額に、所得税の税率をかけます。
| 課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
先ほどの75万円なら、税率5%で37,500円。
ここに復興特別所得税が加わります。所得税額の2.1%なので、37,500円 × 2.1% = 787円。合わせて38,287円。
さらに住民税。こちらは課税退職所得金額の10%です。75万円 × 10% で75,000円。
全部足すと11万3,287円。退職金2,000万円に対して、0.6%ほどということになります。
2027年から税の名前が少し変わります
細かい話ですが、触れておきます。
2027年1月から防衛特別所得税という税が始まります。所得税額の1%。同時に復興特別所得税が2.1%から1.1%に下がるので、上乗せ分の合計は2.1%のまま変わりません。
つまり税額は変わらず、源泉徴収票の内訳の書き方が変わるだけです。計算のやり方を覚え直す必要はありません。
金額別の早見表
ここまでの計算を、よくある組み合わせで一覧にしました。所得税・復興特別所得税・住民税を合計した金額です。
| 退職金\勤続 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 38年 | 40年 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 1,000万円 | 151,050 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 1,500万円 | 628,222 | 264,337 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 2,000万円 | 1,388,722 | 856,372 | 405,702 | 113,287 | 0 | 0 |
| 2,500万円 | 2,196,699 | 1,616,872 | 1,084,522 | 557,277 | 345,072 | 226,575 |
| 3,000万円 | 3,237,974 | 2,473,346 | 1,861,869 | 1,312,672 | 993,262 | 780,322 |
※住民税率を10%として計算した概算です。復興特別所得税を含みます。
表を眺めていただくと、いくつか気づくことがあると思います。
左上と右下では、負担がまったく違う。勤続20年で3,000万円だと323万円、勤続40年なら78万円。同じ3,000万円でも4倍以上の開きがあります。
それから、ゼロの領域がかなり広い。退職金1,500万円までなら、30年以上勤めた方は非課税です。「退職金には税金がかかる」という前提が、そもそも当てはまらない方も多いということ。
自分の数字で計算してみる
表に当てはまらない方のために、手順をもう一度まとめます。
勤続年数を切り上げで出す。表から控除額を拾う。退職金から控除を引いて、2で割る。その金額を速算表に当てはめて、税率をかけて控除額を引く。出た所得税額に1.021をかけると、復興特別所得税込みの金額。別に、課税退職所得金額の10%が住民税。
例をひとつ。勤続30年、退職金2,500万円の方。
控除は1,500万円。2,500万円から引いて1,000万円、半分にして500万円が課税退職所得金額。
速算表では330万円超695万円以下の区分なので、税率20%、控除額42万7,500円。500万円 × 20% − 42万7,500円 = 57万2,500円。これに1.021をかけて58万4,522円。
住民税は500万円の10%で50万円。
合計108万4,522円。手取りは2,391万5,478円です。
計算が狂うとき
ここまでの計算は、退職金を一度だけ受け取る前提です。
iDeCoの一時金や企業型DCを近い時期に受け取る方は、この通りになりません。控除の枠を取り合う形になって、重複した期間の分だけ削られます。
削られ方は受け取る順番で変わります。退職金どうしなら4年、DCが先で退職金が後なら9年、退職金が先でDCが後なら19年。この三つを混同すると計算が合わなくなるので、該当する方は退職所得控除の記事のほうを見てください。
それともうひとつ。ここまでの計算が適用されるのは、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に出した場合だけです。
出さなければ、控除も2分の1も一切なし。支給額にいきなり20.42%がかかります。2,000万円なら408万円。先ほどの11万円との差は、ほぼ400万円。
この書類については別の記事にまとめましたが、とにかく出してください、としか言いようがありません。
最後に
計算そのものは、慣れればどうということはありません。引いて、割って、かける。それだけです。
ただ、この数字が出てくると、そのあとの話が進めやすくなります。住宅ローンを返すのか、手元に置くのか。しばらく働くのか、やめるのか。年金をいつから受けるのか。
どれも、手取りがいくらかが分からないと決められません。逆に言えば、ここが出れば、あとは順番に考えていけます。
退職の2〜3年前に、一度やってみてください。思っていたより多いか、少ないか。どちらにしても、早く知るに越したことはないと思います。
この記事は国税庁の公表資料(タックスアンサーNo.1420、No.2260ほか)をもとに、2026年10月時点の制度で書いています。早見表および計算例は、住民税率10%、復興特別所得税2.1%として計算した概算です。実際の税額は個別の事情により異なります。詳しくは勤務先の担当部署または所轄の税務署にご確認ください。あわせて免責事項をご覧ください。

